生物統計学(Biostatistics)は、医療・健康科学分野を対象とした応用統計学であり、臨床研究や疫学研究における研究デザインと統計解析の方法論を研究する学問です。わが国では、欧米に比べて臨床研究の実施体制の整備が遅れていますが、その原因のひとつが生物統計学を専門とする統計家(生物統計家、Biostatistician)の不足であると言われています。
政府は、革新的医療技術創出拠点プロジェクトや臨床研究中核病院の指定をとおして、臨床研究の実施体制の整備を進めており、同時に生物統計家の育成も促進しています。このような背景の下、2016年7月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development, AMED)は、「生物統計家育成支援事業」の公募を開始しました。
本事業は、医療機関等で臨床研究のデザインと解析の実務に従事する生物統計家の育成を目的としており、東京大学大学院と京都大学大学院が選定されました。これを受けて、2017年3月に医学系研究科に生物統計情報学講座が設置されました。
生物統計情報学講座では、以下の分野の研究に取り組んでいます。なお、各教員の研究領域については、こちらをご覧ください。
様々な統計的または実務的条件下で、臨床試験や疫学研究をより効率的に実施するためのデザインや介入・曝露効果を精度高く評価・推定する統計的方法論について研究しています。
世界的に著名な薬剤疫学の教科書の編者であるStrom教授は、薬剤疫学を「人の集団における薬物の使用とその効果や影響を研究する学問」と定義しています。病院情報システムや電子カルテをとおして得られる薬物の使用データを用いて、有効性・リスク・コストに関する研究を行っています。
計算代数統計学は、統計的問題の背後にある代数的・組合せ論的構造を積極的に活用することで、問題に対する解決手法を与え、その数理的理解を深める学問領域です。特に、マルコフ基底の理論とその正確検定への応用やホロノミック勾配法について研究しています。
医学の国際的潮流であるEBM(Evidence-based medicine, 根拠に基づく医療)を実践する基盤となる学問領域として臨床疫学の研究を実施しています。